男子專科 2014 AUTUMN vol.2 より

男子專科 2014 AUTUMN vol.2

サヴィル・ロウに妖精の粉をふりかけたスウィンギン60’Sのピーターパン(15)

トミー・ナッターが遺したもの

筆者がトミー・ナッターの取材を試みたのは今回が初めてではない。じつは1994年にもロンドンに来ている。しかし1992年にトミー・ナッターがエイズで他界したことを現地で聞いて取材を断念。代わりに弟子のティモシー・エヴェレストに会うことにした。このときティモシーは、ニューテーラーリングムーブメントで売り出し中の若手テーラーだった。話を聞くうちに、トミー・ナッターよりもティモシー・エヴェレストの作るスーツに興味がわき、ビスポークスーツをオーダーすることにした。筆者は日本人初の顧客だったと思う。

ティモシー・エヴェレストは筆者に4つのデザイン画を書いてくれた。どれも素晴らしいものだったが、そのなかから、シングルピークの3個ボタンセンターベントの上着(ただし背中はモーニングコートのように4枚はぎになっている)を選んだ。トラウザースはベルトレス(英国式にフロントの持ち出し部分をフックでとめ、サイドアジャスタブルの金具付き)。さらにウエストコートをつけてもらった。このスリーピースを、ヘリンボーンの細かい織り柄が入ったダークブルーの最上等なウールでオーダー。

結果は大正解。この服は今もお気に入りの上位にランクインし、英国ファッション界の重鎮たちが来日したときのインタビューなどにとても役立っている。彼らはスーツを見て「日本人はイタリアかぶれだと思ってたけどお前のスーツはイカしてるよ」と親近感をもって接してくれる。じつは英国スーツは、この服と、ハケットでメイド・トウ・メジャーしたツイードスーツの2着しか保有していない。まことに『服は口ほどにものを言う』である。

・・・次回更新に続く