剣道着にみる日本男児の美しさ・・・1

DANSEN FASHION 哲学 No.9 三島由紀夫:男らしさの美学・・・男子專科(1969年5月号)より

DANSEN FASHION 哲学 No.9 三島由紀夫:男らしさの美学・・・男子專科(1969年5月号)より

服装が先か肉体が先か、といふ考へになると、今でも日本人は大部分「服装が先」と考へてゐることは明白で、「肉体が先で、それに合ふやうに、着るものを考へる」といふ考へは、少数意見のやうに思はれる。ここに西洋人の考へとの根本的相違がありながら、大多数の日本人は、西洋人の服装である背広に執着してゐるのである。これはおかしなことだと云はねばならない。

外国の海岸へ行ってみればわかるが、現代の西洋人の男の体格は、ギリシア古典彫刻のプロポーションに比べると、決して美しいとはいへない。猫背が多いし、足は真直で長すぎ、腰は不安定、胴はいやにボテッと厚く、胸は厚いが多くは樽型であり、肩幅もせまい人が多く、それに比して、尻が大きすぎる。西洋人もかういふ自分たちの体格の欠点をよく知ってゐて、そのシガを隠すために背広を発明したのである。「エスクワイヤ」のモデルなども猫背が多く、健康な男らしさを表徴してゐるとは云へない。足も長ければいいといふものではなく、あまりにもまっすぐな脚は、機械的で非生物的である。

ところがかういふ体形に背広はうってつけなのである。猫背は背中のカットに優雅な線を与へ、樽胸はネクタイを前へ押し出し、襟元のラインを溌溂とさせ、せまい肩幅はパッドで補ひ、ズボンはひたすら直線を強調する。かくて、醜が美に転換したのだ。

・・・次回更新に続く