男子專科 1986年7月号 NO.268 より:思い出の日々に捧ぐ我がヴィンテージ・ホワイト

男子專科 1986年7月号 NO.268 より

思い出の日々に捧ぐ我がヴィンテージ・ホワイト-4

20年代の天才児にして問題児、かのフィッツジェラルドの残した言葉「人生は崩壊の過程である」をもってしても壊せないもの。それは思い出である。と、私はここで言いたいのですね。それは、’20年代の次は’50年代が流行するであろうという世界とは、少々ちがうのだ。

なんだか変わっていておもしろそうだからと、蔵の奥から古い服を引っ張り出してみるだけでは、ヴィンテージ・ホワイトにはならないのです。

その服のなかにある、なつかしさ、セピア色の歴史、感傷のスパイスが効いた思い出に共鳴できるかどうか。ヴィンテージ・ホワイトを着ることは、つまりそういうことで、服を着るとは、実はもともとかなりロマンチックな行為なのであります。

ヴィンテージ・ホワイトのなかに、みなさんそれぞれの記憶を、探し出していただきたい。そして、一見いかにもモロそうな思い出という存在が、意外にもさまざまな攻撃に耐えて、しぶとく壊れないのだということを、確認してみてはどうだろう。

そうすれば、白っぽい麻の着こなしが、またひとまわり、大人になるに違いないと、私はおだててしまうのである。

最後に近況をニュースしておくことにしよう。

ちょっと前に、新しいオフィスに引っ越しました。大分広くなって、仕事はしやすいし意欲もあらたにで、この原稿は、新オフィスでの第一作なのである。

ほぼ同じころに、イラストの矢島氏もオフィスを新しくして、今月はなぜか新オフィス・コンビによる仕事となってしまった。その矢島氏のイラスト集が近々出来上がるそうなので、読者諸君、こっちのほうも楽しみに待っていただきたい。成長して器を大きくする。そういう引っ越しはいいものである。

・・・了