剣道着にみる日本男児の美しさ・・・2

DANSEN FASHION 哲学 No.9 三島由紀夫:男らしさの美学・・・男子專科(1969年5月号)より

DANSEN FASHION 哲学 No.9 三島由紀夫:男らしさの美学・・・男子專科(1969年5月号)より

日本人の背広は、他人の欠点を隠す着物を、わざわざ欠点を持たぬ(あるひは反対の欠点を持つ)人間が、借着をしてゐるやうなものだから、巧く行くわけがない。

日本人の伝来の欠点は、胴長で足が短かく顔が大きくて平面的なことだった。このごろすべてこの基準から外れた日本人が多くなってゐるがやはり西洋人から見れば、相対的にこの欠点は際立ってゐる。かういふシガを隠すために発明された服装が美しいことはいふまでもないが、現在見られるもので、もっとも美しい男の服装は剣道着である。手に藍のつくやうな、匂ふやうな濃い藍の稽古着、袴に、黒胴と垂れをつけた姿ほど、日本男児の美しさを見せるものはない。日本人の体格の欠点がすべて隠されてゐるからだが、これも、「肉体が先、服装が後」といふ考へから生れたものではなく、おそらく機能上自然にさうなって、西洋の男の服装原則に適合したのである。かくて日本人にとって、背広は日本的服飾観念、剣道着は西欧的服飾観念に属するといふ逆説が成立する。

・・・次回更新に続く