ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。
ゴージ(ラペルの切り込み)は何のため?
背広の衿に見られる「衿刻み(えりきざみ)」のことを、一般にゴージと呼んでいる。上衿(カラー)と下衿(ラペル)の接点に当たる線のことはゴージ・ラインといい、これは「衿縫い線」を意味している。それでは、ゴージって何なのだろう?ゴージ gorgeとは英語で「喉(のど)」とか「食道」という意味。そこにもし背広衿のジャケットがあったら、衿全体を一度立ててみてほしい。そうするとゴージ・ラインの部分はどうなるか? おそらく首元の「喉」のあたりにぴったりくることだろう。そう、そこに現われている詰衿の学生服のような形が、いわゆる「背広」の原型だったのだ。つまり、ゴージといいゴージ・ラインといい、それらは背広誕生の名残りを示しているのである。軍服のような服を「立ち衿の服」というのに対し、背広は「折り衿の服」と称される。シングル前の服の衿を折り返せばゴージはノッチト・ラペルの「菱衿」を形作り、ダブル前のそれであればピークト・ラペルの「剣衿」となるのも 、そうした道理からきているのである。