一着のレインコートをめぐる小説風断片(2)

DANSEN FASHION 哲学 No.111 村上春樹:一着のレインコートをめぐる小説風断片・・・男子專科(1981年1月号)より

DANSEN FASHION 哲学 No.111 村上春樹:一着のレインコートをめぐる小説風断片・・・男子專科(1981年1月号)より

雨は休みなく降り続いていた。いったいいつから降り始めたのか、誰ひとり覚えてはいない。そんな雨だ。最初の水滴が微かな予感のように音もなく地上に舞い下り、長い時間をかけて雨へと変わっていった。人々が気づいた時にはアスファルトの舗道はすでに黒く染まり、ところどころに小さな水たまりさえ作り出していた。それは1枚のカーテンのように、ひとつの季節を区切る雨だ。

広い草原のまんなかにぽつんと車を停め、一人ぼっちで温かいスープでも飲みながら眺めたくなるようなタイプの雨だな、と彼は思う。きっとテレビのコマーシャル・フイルムにでもなったような気がすることだろう。悪い気分じゃないかもしれない。しかしもちろん、彼のいる場所は広い草原のまんなかなんかじゃない。彼を取り囲んでいるのは多くの人々が長い時間と膨大な労力を注ぎ込んで築き上げたコンクリートの巨大な迷路だ。都市---自動ドアとエア・コンディショナーとパーキング・メーターの壮麗な歓楽宮。

彼はウエイトレスの運んできた2杯目のコーヒーに口をつけ、そしてなかば反射的に腕時計を眺める。4時15分。

・・・次回更新に続く