〈プロフィール〉あとうだ・たかし 1935年東京生まれ。早稲田大学文学部仏文科卒業後、国会図書館に勤務。こうした環境の中で蓄積された幅広い知識をもとに、勤務のかたわら短篇作品を書き続け、その後文筆業に専念、この間に発表した『ブラック・ユーモア入門』はベストセラーに。昭和53年『来訪者』で推理作家協会賞受賞。翌年『ナポレオン狂』で上期直木賞受賞。ショートショート・ストーリーの名手として活躍中・・・男子專科(1984年12月号)より
ものぐさゆえにカジュアル着れず(1)
私は、洋服ならば背広党である。これは、かつて図書館勤めという堅気のサラリーマン生活を11年間送ったせいもあるかもしれない。当時は金もなくて、カジュアルウェアなんて買う余裕もない。背広ならば、毎日同じものを着ていても、ネクタイやシャツなどをとりかえれば、さほどおかしくない。カジュアルならばこうはいかない。毎日同じ服は着れないし、どうしてもバリエーションが必要になってくる。
それに私は、どうも着こなしに自信がなかった。この点でも背広ならば、ネクタイをしめていれば、着こなしの相当ヘタな人間でもなんとかサマになる。服の組合わせをあれこれ考える必要もない。どこへ出かけるのにもとりあえずは無難である。
こんなところから背広党になってしまったのだが、もの書きという自由業の身になり、経済的にも多少余裕ができても、若い頃の影響をひきずって、カジュアルウェアは着れないでいる。
・・・次回更新に続く