DANSEN FASHION 哲学 No.141 荒木経惟:知性が恥性を必要とする(1)

男子專科(1983年7月号)より

あらき・のぶよし:昭和15年、東京生まれ。千葉大学工学部卒業後電通入社。1年後の39年に『さっちん』で第1回太陽賞受賞。昭和46年に妻陽子さんとの新婚旅行の記録『センチメンタルな旅』を自費出版。以後、フリーの写真家として活躍中。

ブランドものもちょっとアレンジしてアラキオリジナル

アタシの場合、気に入った洋服があると、かなりしつこくとっておく。その反対に、気に入らないと、どんな高価なものであろうがすぐにポイッ。酒場で酔っぱらったりしたときなんか、やたらと服をポンポン衝動員いするんだけど、何せ、酔った勢いで買ってるわけだから、家に帰って、酔いのさめた目で再び見てみると、「やっぱ、よくない」ってことで、結局は1回も手を通さずじまいのことが多いのよ。

1度気に入るとしつこいくらいずーとつきあうけど、気に入らなきゃすぐポイッというのは、写真のモデル嬢に対しての気持ちと同じだね。

洋服で気にいったものは長く着るっていうのは、自分でそのとき”カッコイイ!”と思った気憶をずっと残しておきたいというココロの表われなの。だから、えり幅の大きな流行遅れのオーバーだとか、親父の仕立て直しのお古の上着なんかも、女房に言わせりゃ、「古くさい」「しまうのにじゃまだ」、そうだけど、しっかり持っているわけ。新しく買ったシャツに組合わせてみると、なかなかおもしろい味が出るんだね。

それに若い人だって古着や時代遅れの服をうまく自分流に合わせてなかなかカッコよくキメてるじゃない。アタシが、ずーと昔から着続けているもんだから、ハゲてヨレヨレになった皮ジャンも、ストーン・ウォッシュのジャンパーが流行ってる今なんか、すごくいい感じだよ。

自分で言うのもなんだけどアタシは、案外おしゃれのほうだと思っている。洋服は人まかせにせず、自分で必ず選ばないと気にくわない。このあいだ『10年目のセンチメンタルな旅』って写真集出したんだけど、それでヨーロッパに行ったのよ。そのとき、むこうで買った服を着たほうがおもしろいっていうんで、パリの有名ブティックの本店に挿入して何枚かのTシャツを購入。ただ、そのままじゃ、それほどよくないわけよ。「あの店もたいしたことないなー」って感じ。

それで、アタシはさっそく蚤の市に出かけて、素敵な古ボタンを見つけ、それをTシャツに縫いつけちゃった。これでキマッたね、バッチリよ。洋服を買うときに、あとで家に帰ってアレンジを加えればぐっと良くなるなと考えながら選んだり、同じスタイルのものを色違いで揃えたりと、なかなかのものだと思わない?

パリでは、メガネの骨董屋ものぞいた。メガネは、視力が弱いための実用的な面もあるけど、かける以上はアタシのファッションの一部でもあるわけだから、メガネ売場はわりとマメにみるほうでね。その店に、気に入った骨董の老眼鏡がありまして、「あっ、これはサルトルのおかあさんのメガネ風だ」ってんで、さっそく購入。日本に帰って、自分に合う度のレンズに入れかえてこれまたグーよ。

・・・次回更新に続く