なぜタンクトップと呼ぶの?
ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。
日本でいうランニングシャツ型の簡便なトップス、これをタンクトップというのは、タンクスーツと呼ばれる服の上半身部分の意味からきている。ではタンクスーツとは何か? これは1920~30年代にかけて用いられた水着をいう。タンクとは「水槽」という意味で、「池、湖」をいう英米の方言のひとつでもある。第1次世界大戦中の1916年、初めて登場した戦車を「タンク」と呼んだのは、それを開発したイギリス陸軍が敵に新兵器と勘ずかせないために、形の似たタンク(水槽)と秘密裡に名付けたのが始まり。そのころ用いられていた男性の下着は「ユニオンスーツ」と呼ばれる上下がつながった形のものだった。これを元に袖の部分をなくし、下は膝上で切り落としたつなぎ型の水着が考案される。そして、これにタンクスーツの名を冠したのだ。1920年代の風俗を描いた映画などを観ると、そうしたクラシックな水着に身を包んだ男性が現われて苦笑させられることが多いが、やがてそのトップ部分だけが独立してタンクトップと呼ばれるようになるのである。