人間の価値は端正な肉体にある・・・2

DANSEN FASHION 哲学 No.9 三島由紀夫:男らしさの美学・・・男子專科(1969年5月号)より

DANSEN FASHION 哲学 No.9 三島由紀夫:男らしさの美学・・・男子專科(1969年5月号)より

ところで、西洋の男の服装の観念は、これとは根本的にちがってゐた。古代ギリシアの文化が根本にあり、裸体の美しさが、人格的精神的価値と結びつけられた伝統はなかなか消えず、背広の仕立にさへ、この精神は連綿とうけつがれてゐる。もちろん、、西洋諸国でも、肉体が醜くなった人たちの仕立によるゴマカシは発達してゐるが、特にイギリスのやうな、男子服飾の本家で、肉体の端整が留意されたことは非常なものだった。南太平洋のある島に赴任したイギリス人の植民地長官は、イギリス風の考へで、スポーツに精を出し、スリム・ルックを維持して、それを威厳を保つ所以と考へていたが、土民たちは、もっとも肥った酋長をもっとも偉い酋長として尊敬してきた伝統を捨て切れず、「どうか長官もたっぷり喰べて肥ってくれないとわれわれが困る」と陳情に来たさうである。

日本人もさういふ考へが脱け切れず、今でも頭の古い芸者などが、「立派な御体格ねえ」などとほめるのは、決って、脂肪過多の肥満型なのである。

・・・次回更新に続く