DANSEN FASHION 哲学 No.27 澁澤龍彦:わが夢想のお洒落(10)
ちなみに、私の考えでは、工業社会としての現代の資本主義社会で、この消費の哲学を実践しているのは、むしろ国家そのものである。万国博覧会やオリンピックがそれを証明している。
まあ、そんなことはどうでもよろしいが、今日の大衆社会内でうろうろしている私たちにとっては、所詮、「ばさら」的な消費などは、及びもつかない一場の夢なのだ。ルネッサンスの夢から覚めてみれば、私たちの身辺には、寒々とした耐久消費財がごろごろしているにすぎない。
学者の説によると、現代男性のフォーマル・ウェアである背広は、近世ヨーロッパの労働者の服から発しており、日本人の礼装である羽織袴は、百俵以下の下級武士あるいは町人の服装であったという。維新前までは、武家の礼服はもっぱら直垂、裃であった。
私がいかに日本のルネッサンスにあこがれたとしても、まきか緞子金襴の直垂を着て、銀座の舗道を歩くわけには行かないし、応接間のソファーに虎の皮や豹の皮を敷くわけにも行かないのである。やれば出来ないこともあるまいが、金がかかって仕方がなかろうし、物事にはバランスということもある。せいぜい、カンガルーの皮くらいで我慢していなければならない。
・・・次回更新に続く