男子專科 1986年5月号 NO.266

男子專科 1986年5月号 NO.266 より

サテン・ストライプの夏はセクシーな事件が起きそう-3

ところで、ひところ前まではよく素材の名称が、歌声の形容に使われたのでありました。”ベルベット・ヴォイス”なんてのもあったし、シルクにビロード、そしてサテンもずいぶん使われていた。古いレコード・ジャケット、それもジャズ・ヴォーカルなどを調べてみれば、こうした布地の素材名称が、どんどん出てくるはずである。たしか”サテンの肌触わり”なんていう女性ヴォーカルのLPもあったように記憶している。

こういうたとえを、映画スターでやってみると、サテンの雰囲気としてはキム・ノヴァクなんか、ぴったりの女優さんだろう。その他には、グレース・ケリーもいい。このふたりはヒッチコック作品でもおなじみで、思い出してみると、ヒッチコックはサテンのような女優がお気に入りだった。ちょっと冷たいくらいに優雅な女性のなかにセクシーさはある、というヒッチコックの女優論を持ち出すまでもなく、サテンもまた優雅にしてセクシーな素材である。ただ、”知りすぎていた男”のドリス・デイは、サテンというより、むしろポプリンなどの上等なコットンというほうが、ぴったりだと思うのだけどね。

さらに男性スターはとみれば、ジェームス・スチュアート、ケーリー・グラントなどなど、実にカシミアのごとく上質にして上品な顔ぶれが、ヒッチコックのごひいきだったことに気付く。

言ってみれば、サテンとカシミアのサスペンス。まったく、たいしたものであります。そして、ヒッチコックの代表作のひとつである”裏窓”の原作者は、あのコーネル・ウールリッチ。まるで黒いビロードのごとき恐怖を漂わせたミステリで名高い、あのウールリッチなのであります。

カシミアのように上品で、サテンのようにセクシーで、それが切り裂かれたとき、黒いビロードのような恐怖があらわれる。こう説明すれば、この大監督のセンスの良さに驚くのですね。

つまり、サテンとは、そういう気分の素材なのであります。

そしてそしてそして、しつこいのを承知で言っておきたいポイントは、トーン・オン・トーンのテクニックである。これを忘れてはサテン・ストライプも光沢を失うのだ。カラーのまとめ方には、十分に注意していただきたい。

このドレス・テイストは、スポーツからドレス・アップまで、あらゆるシーンに適用できる。私はまた、そうなることを、大いに期待しているのである。

ランチョン・マットをポケットチーフにするアイデアは大成功だったが、ポケットチーフをランチョン・マットに使うというアイデアは、いまだ疑問のままであります。

・・・了