日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

カチューシャ

海外でまったく通用しないファッション用語:カチューシャ

カチューシャ
katyusha

正しくは
【ヘア・バンド】
hair band

女性のヘア・アクセサリーのひとつで、髪の乱れを整えるために用いるワイヤーやプラスティック製の弾力性のある髪留めをいう。前頭部に掛けて、両耳のうしろで留まるようになった輪状のもので、いわゆるヘア・バンドの1タイプとされる。カチューシャというのは、ロシアの文豪トルストイの小説「復活」の女主人公の名前で、日本で上演された舞台劇「復活」の人気から名づけられたもの。だから、外国ではなんのことだかわからない。

トルストイ原作の「復活」が、島村抱月の脚色により、東京・帝国劇場で上演されたのは、1914(大正3)年3月のことである。女主人公カチューシャには芸術座の看板女優・松井須磨子が扮し、この公演は大評判となった。おまけに劇中、彼女が歌った「カチューシャの唄」が大ヒットし、芝居は見なくともこの歌だけは全国を駆け回り、小さな子供たちまでもが口ずさんだといわれる。さらに「復活」は、この年10月には映画「カチューシャ」として公開され、これまた空前のヒットを記録する。(こちらの主演は女形の立花貞二郎であった)そして帝劇の公演は、以後4年間440回にわたってロングラン記録を続ける。こうなると放っておかないのが、世間の商売。早速、カチューシャの名をつけた商品があふれかえった。櫛(クシ)やカンザシ、リボン、指輪、絵ハガキといったものがそれで、こうしたカチューシャ・グッズのなかに、例の髪留めもあった。つまり、カチューシャというのは、もとは日本の登録商標名であった。それが長い年月を経るうちに、あの髪留めの代名詞になったというわけだ。だから、英語でいうならヘア・バンドが、もっともよく通じると思う。