一着のレインコートをめぐる小説風断片(6)
男はもう一度腕時計を眺める。4時22分。とりとめのない奇妙な時間だ。人は午後4時22分にいったい何をすればいいのだろう。酒を飲み始めるにも、髭を剃りなおすにも早すぎる。夢を見るには遅すぎる・・・・・・おそらく。
彼は何分か迷ってから、脇に置いたコートを手に取ると、両方のポケットに手をつっこんで中身をガラスのテーブルの上にあらいざらい並べてみる。まるで死体を漁っているようだな、と彼は思う。それも自分自身の死体、まだ微かな温もりの残った死体だ。まあ、いいさ。死ぬのは怖くなんかない。嫌なのは雨と、この夕暮前の一刻だ。彼は一度だけ頭を振って、テーブルの上に意識を集中する。
・・・次回更新に続く