日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

海外でまったく通用しないファッション用語:エナメル・シューズ

エナメル・シューズ

エナメル・シューズ
enamel shoes

正しくは
【パテント・レザー・シューズ】
patent leather shoes

光沢感の強いエナメル革でつくられた靴の総称。婦人靴にも見られるが、多くは礼装用の紳士靴に特有のもので、オペラ・パンプスなどとして知られる。このエナメル・レザーenameled leatherという素材名は日本独特のもので、英米ではパテント・レザーというのがふつう。またイギリスでは、これをとくにペイタント・レザーと発音することが多い。パテント(ペイタント)とは「特許・特許権」という意味で、この素材が特許を得てつくられたという伝説からきている。

外国でどうしても通じないファッション用語のひとつに、エナメル・シューズというのがある。夜間のパーティーでタキシードといっしょに履くピカピカの黒い靴といって、はじめて「ああ、パテント・レザーの靴のことか」と理解される。エナメル加工で表面を仕上げた靴だから、エナメル・シューズといっているのに、パテント・レザー、ましてやペイタント・レザーと耳慣れない言葉を聞かされてしまうと、どうしていいのか、わからなくなってしまうのだ。パテントとは「特許」の意味で、誰かがこの皮革の製造方法を得てつくったかのような印象を受けるが、「ファッション辞典」(文化出版局)の解説によると、とくにその製造工程の特許をとったわけではなく、業界用語として普及しただけとある。もともとはアメリカかどこかでの新案特許なのではあろうが……。ともかく日本の常識とあちらでは、これほど違ってくるのである。ところでオペラ・パンプス(イギリスではコート・シューズ court shoesという)は、なぜエナメルでなければならないのか? それはダンスのときにご婦人方のドレスの裾を靴墨で汚さないように、という紳士的な配慮からきたのである。