人間の価値は端正な肉体にある・・・1

DANSEN FASHION 哲学 No.9 三島由紀夫:男らしさの美学・・・男子專科(1969年5月号)より

DANSEN FASHION 哲学 No.9 三島由紀夫:男らしさの美学・・・男子專科(1969年5月号)より

そもそも東洋における男の服飾とは、肉体を隠蔽し、権力を誇示し、裸にしてみれば誰も同じ肉体に、ムリヤリ階級差を与へるところに生れた。起りはインチキとゴマカシである。男は支配のためにはどんなインチキでも敢行する動物である。

そして困ったこと、本質的に矛盾のあることは、権力乃至地位が、単に抽象的なものではなく、肉体を媒介にせねばならぬ、といふことなのである。ここに服飾の必要が生れた東洋では、上層階級の服装ほど、肉体の線をあらはにしないものが選ばれ、支那の影響をうけた公卿の服装はその代表的なものであった。男が服装において、肉体の線を出せば出すだけ、権力乃至地位の威厳と抽象性が弱まると考へられた。この考ヘは、いまだに強固で根強いものがあるから、西洋から背広が輸入されても、なほ、背広は、生地の高価と仕立代の高価ではかられ、東洋的な服装観念で、ゴマカシの仕立技術が高度に発達したのである。

・・・次回更新に続く