装いの美は軍服にある

DANSEN FASHION 哲学 No.9 三島由紀夫:男らしさの美学・・・男子專科(1969年5月号)より

DANSEN FASHION 哲学 No.9 三島由紀夫:男らしさの美学・・・男子專科(1969年5月号)より

これでは、いつまでたっても、東は東、西は西である。東西揆を一にした男子の服飾といふものがあるだらうか。ある。それは軍服である。

軍人は何より肉体的職業であり、肉体の鍛錬がすべてに先行するから男の肉体の基本的条件はすべて最高度に発達せしめられてゐる。それに着せてゆくのが軍服であるから、おのづから、「体が先、服装が後」といふ服装原則に準拠してゐる。軍服の仕立は、東西を問はず、体にフィットさせた特殊な技術を要し、従って、背広とちがって、誰でも何とか恰好がつくといふわけには行かない。体の線の崩れてしまった男には似合はないのである。アメリカでは、腹が出て、軍服が似合はなくなってしまった将軍はクビになるといふ噂だが何より外見と容儀を大切にする軍隊では当然のことである。軍服の胸の線、背中の線、腰の線ほど、男性的な力と敏捷さと優雅を、いつはりなく呈示するものはないからであり、それを失った人は、もはや軍人としての資格がないのである。

男の服装として、剣道着と軍服しか美しいものはないとすれば、服装とは、いかにゴマかしても、性の特質を、攻撃的戦闘的な男性の特質を表現するものに他ならぬ、といふことがはっきりするにちがいない。服装とは性的なものである。そして服装が性的なものから遠ざかれば遠ざかるほど、権力その他の抽象性の体現としてのゴマカシの技術に充ちたものになってゆくのである

(この項原文のまま)

・・・了