服装の流行は、まず「モード」として現われる。ここでいうモードとは「最新型」という意味で、デザイナーによる「創作」などがここに含まれる。これが流行に敏感な人たちの支持を得て拡大すると、「ファッション」と呼ばれるようになるのだ。ここでのファッションとはまさしく「流行」の意味。そして、ファッションがさらに普及し、大衆の間で定着を見るようになると、これは「スタイル」という言葉に置き換わる。スタイルとは、すなわち「定型」とか「様式」の意味。これを「流行の三角構造」などと呼んでおり、ファッション界では常識的な考え方となっているのだが、実際にはモード、ファッション、スタイルの使い分けはこれほど明確には行われてはいない。近ごろの流行を見ていると、モードとして生まれてはみたけれど、ファッションになるまでに消滅してしまう例が驚くほど多いことに気づく。これを「ファド」とか「クレイズ」と呼ぶことも覚えておきたい。
ピエール・カルダンのシェイプド・ライン
「ベルエポック・スタイル」1966~1968
1966(昭和41)年に入ったころから、ファッション全体に昔を懐かしむような雰囲気が生まれてきた。モチーフのひとつとなったのが20世紀初頭の「ベルエポック」と呼ばれる時代で、妙にクラシカルでエレガントな雰囲気の服装が若者たちに好まれ出したのだ。その代表的なもののひとつが、パリ・オートクチュール界の巨匠ピエール・カルダンによるメンズ・スーツ。カルダンはすでに1962年からメンズウエアのデザインに取り組んでいたが、その実物が高島屋との提携によって日本に初上陸したのは1966(昭和41)年9月のこと。そのころ日本で流行していた若者向けのスーツとは違って、これは格段に大人っぽい雰囲気を秘めていた。シェイプド・ラインと呼ばれる極端にボディーにフィットしたラインのスーツは、まさにコンチネンタル・ルックの極致を行くものであった。こうした昔風のエレガント・スタイルは、1968(昭和43)年の「ボニー&クライド・ルック」まで続く。