DANSEN FASHION 哲学 No.27 澁澤龍彦:わが夢想のお洒落(12)
私のスーツも、ほぼ同じ色の系統で、とくに好きなのは、細かい縦縞のはいっているやつである。それが粋だと自分で信じこみ、そういうスーツばかり作っているのは、我ながら偏狭な好みだと思わざるを得ない。春先に着る軽いジャージーのスーツ、真夏の冷房の中で着る麻のスーツも好きなものである。
背が高くないので、さすがにマキシ・コートを着る勇気はないが、痩せているおかげで細いスラックスや、先のひらいたパンタロンなどは私でもはける。お断わりしておくが、これだって、昭和三年生まれの私の同輩のあいだでは、ほとんど考えられない若造りの冒険なのである。腹の突き出た中年男に、どうして細いスラックスがはけるものか。
アクセサリーとして、いつも私の左の手にはデコラティヴな銀の指環、そして右の手にはダンヒルのパイプがある。
パリへ出かけても、ランヴァンの靴下ぐらいしか買ってこないような私だから、少なくとも現実生活では、贅沢なお酒落とはあんまり縁がない、と申さねばなるまい。
しかし私は、お酒落とは精神に閏係したものだと思っているし、かつての日本の「ばさら」精神を、文化として、作品のなかで生かそうとつねに考えてはいるのである。
(この項原文のまま)
・・・了