男子專科 1986年9月号 NO.270 より

CINE PREVIEW:ラビリンス:男子專科 1986年9月号 NO.270 より

美しい魔王になったD・ボウイは昔のスターのゲスト出演って扱いでかわいそう

デビッド・ボウイ主演というので、つい思い込み違いをしてしまったのだった。さぞや妖しく美しく、めくるめくような、でもってキラキラしい摩訶不思議”迷宮”ラブ・ストーリーなのだろう、と。

ところが、どっこい、見てみれば、ハッキリ、ジェニファー・コネリー主演のアドベンチャー・ファンタジーだったのね。ま、考えてみれば、かのジョージ・ルーカスが製作総指揮をとってるわけだし、監督は『マプット・ムービー』のジム・ヘンソンなわけ。アドベンチャー・ファンタジーになるのが、もう当然なので、これは勝手に思い込んだ私が悪いのだ。どーせ。

要するに、迷宮の魔王(D・ボウイ)に弟をさらわれたサラ(J・コネリー)が、弟を取り戻すべく迷宮ワンダーランドを巡るというお話。『オズの魔法使い』と『不思議の国のアリス』をゴッチャにしたみたいな映画で、表われるモンスターや不思議動物や小人のキャラクターも、それっぽい。

製作費いっぱいかけて、仕掛けも頑張って、SFX駆使した分だけ、結構驚かせたり、スゴイ!とうならせるシーンはあるのたけど、どうも、なんとなく物足りたいのだ。J・コネリーも愛らしかったし、D・ボウイもメイクのおかげか往年の美しさを取り戻してたし、歌まで歌ってサービスしてくれたのに。

どうも、これは、魔王とサラのキャラクターや感情の動きが、いまいち浮かび上がってこないせいらしい。そりゃ、この映画はクリーチャーの面白さとSFXの凄さを見せる映画だからヨイのだ!と断言されてしまえば、一言もないけども。

だって、せっかくD・ボウイをキャスティングしてるのだよ。魔王がサラに気があるところまでは分かるけど、サラだって少しはフラ~ッと一瞬しそうになるというシチュエーションだってあっていいと思う。少女から女へと変身していく危い過程を、このラビリンス過程と重ね合わせて描いてるのなら、なおさらのこと。サラは美しい魔王に瞬間なりとも心を魅かれるべきだ。

でなきゃ、D・ボウイを魔王にふるのなんかよして、容貌怪異の大モンスターを魔王にして、サラがこれをやっつけちゃうというカンペキ・アドベンチャーにしてくれなくちゃ、気持ちの持ってき場がないよー。

美しく撮れたD・ボウイも、昔の大スターがお子様向け映画にゲスト出演してるみたいな扱いされたんじゃ、かわいそう。ところで、魔王ボウイがロリコンしちゃうというのは、映画のストーリーを離れて、カナシイ。”地球に落ちてきた男”で、超然と花なんぞを食べてるべきボウイの相手は、やっぱり美しい男か、美しい女であって欲しい、と昔々少女期を通り抜けた私はひがむのだ。