ドリーム・チャイルド

CINE PREVIEW:ドリーム・チャイルド(男子專科 1986年12号 NO.273)

不思議の国の本物のアリスがニューヨークへやってくる。

ルイス・キャロル(本名チャールズ・ドジソン)といえば、あの『不思議の国のアリス』の原作者で、イギリスはオックスフォード大学の数学の教授---と、このぐらいのことならば読者諸兄もご存じのことだろう。しかし、いかにしてこのファンタジーが生まれたか、また、ルイス・キャロルとはどんな人物だったのか、そういうことになると明確に答えられる人はほとんどいないのでは?この映面はそうしたルイス・キャロルと『不思議の国のアリス』の謎を解き明かすインサイド・ストーリーなのだ。

物語は1932年、イギリスからアメリカに渡る豪華客船に乗るアリス・ハーグリイブス夫人の夢から始まる。その夢とは70年前、彼女はまだ10歳の頃、父の同僚だった数学教師が語ってくれた不思議な物語だった。やがて目をさましたアリスと付添いのルーシーは、ニューヨークの街であの物語以上に不思議な体験をすることになる。当時のニューヨークは大恐慌の真っただなか。新聞記者はすこしでも明るいニュースを探し四苦八苦している。そんな中に流れたのが”『不思議の国---』の本物のアリスがやって来る”というニュース。アリスはルイス・キャロル生誕100周年の記念行事でコロンビア大学から名誉学位を受けるために渡米したのだった。だが、下船した彼女を待っていたのは多勢の新聞記者。彼らはアリスにルイス・キャロルとの関係を聞き出そうと大騒ぎ。そんな中に新聞社をクビになったばかりのジャックもいる。彼は特ダネの独占インタビューを狙い、ホテルに落着いたばかりのアリスを訪れた。初めはその厚かましさに呆れていたアリスだが、ジャックの熱心さに根負けし、永い間忘れようとしてきたドジソン先生(ルイス・キャロル)の思い出を語り始める---。

オープニングのアリスの夢が実にいい。おどろおどろしくも、ユーモラスな味もあり、これからナニカが起きそう---という臭いを漂わせて見る者をスクリーンに引き込まずにはおかない。ドラマ構成も実にうまい。現在と過去、そしてルイス・キャロルの語る『不思譲の国のアリス』の世界と、物語は時を交錯しながら展開するのだ。もちろん原作でおなじみの”気狂い帽子屋”や”眠りネズミ”などの魅力的なキャラクターたちも、オリジナルのイメージそのままに登場。これも『セサミ・ストリート』の人形たちの生みの親で『ダーク・クリスタル』『ラビリンス』の監督ジム・ヘンソンの作品なればこその術だ。

しかし、なんといってもこの映画でのいちばんの見どころは、ルイス・キャロル役のイアン・ホルムの演技だろう。アリスに対しての性的なものをも含む愛を抱きつつも、清教徒ゆえにそうした自己を殺さなければならなかった男---こんなにも難解な役を彼は見事に演じている。ほかにコーラル・ブラウン、ピーター・ギャラガ等が出演。監督はテレビ出身のイギリス人、ギャビン・ミラー。