服装の流行は、まず「モード」として現われる。ここでいうモードとは「最新型」という意味で、デザイナーによる「創作」などがここに含まれる。これが流行に敏感な人たちの支持を得て拡大すると、「ファッション」と呼ばれるようになるのだ。ここでのファッションとはまさしく「流行」の意味。そして、ファッションがさらに普及し、大衆の間で定着を見るようになると、これは「スタイル」という言葉に置き換わる。スタイルとは、すなわち「定型」とか「様式」の意味。これを「流行の三角構造」などと呼んでおり、ファッション界では常識的な考え方となっているのだが、実際にはモード、ファッション、スタイルの使い分けはこれほど明確には行われてはいない。近ごろの流行を見ていると、モードとして生まれてはみたけれど、ファッションになるまでに消滅してしまう例が驚くほど多いことに気づく。これを「ファド」とか「クレイズ」と呼ぶことも覚えておきたい。
ヒッピー文化に派生したサイケデリック・ファッション
「アヴァンギャルド・ファッション」1967~1970
アヴァンギャルドはフランス語で「前衛」の意味。とくに第1次世界大戦を前後して生まれた新しい芸術運動を総称する言葉として知られるが、これがなぜか60年代後半の日本で頻繁に用いられるようになった。いわく「アヴァンギャルド・ファッション」。とにかく奇抜で先端的なファッションなら、なんでもアヴァンギャルドと名付けられたのだ。「モッズ」も「ユニセックス」もアヴァンギャルドだが、67年頃からはヒッピー文化に派生したサイケデリック・ファッションがこれの代表的なものと目されるようになる。極彩色の幻想的なプリント模様を配したシャツやミニドレス、またインドや中近東の民族衣装を思わせるエスニックな服装の数々。68年にはこうしたものを専門に扱うサイケデリック・ショップ「ジ・アプル」が新宿に誕生し、またサイケ調の本格的なディスコ「ムゲン」が赤坂に開店した。これらはともに「サイケの浜野安宏」と名乗る男の仕業だった。