F/X引き裂かれたトリック

CINE PREVIEW:F/X引き裂かれたトリック(男子專科 1986年12号 NO.273)

秘密機関、刑事、FXマン、三つどもえのファッションも注目。

タイトルを見ただけで何かひと味違う面白さがありそうだな?という感じがするが、映画は予想を超えるスリリングなムードに溢れていて抜群に楽しい。というのは、やはりタイトルにあるFX(特殊効果)を活かした作品だからだ。

監督に起用されたロバート・マンデルは、「サスペンス/スリラー映画を見始めた頃から、この特殊効果のトリックを生かしたものを作ってみたいと心ひそかに思っていた」そうだが、念願を果した作品だけに凄い情熱を傾けて演出したあとがありありとわかる。そして、監督のノリがスタッフやキャストに徹底したのか、スリリングなアクション場面のひとつひとつが実によく決まっている上オチがついて笑わせるという仕掛けになっている。このあたりの構成は現代的な変化に富み新しいアクション・ドラマの誕生!という感じがする。

映画は、いきなり派手なレストラン襲撃から始まる。その迫力とテンポの速さにはド肝を抜かれ、画面にのりこめんでいると、”はい、カット!”!の声が突び出し映画の撮影シーンであることがわかり思わず笑ってしまう。

ところが、このシーンの仕掛人である特殊効果マンのところにプロデューサーと称する男が近よってきて、”ちょっと仕事を手伝って貰えないか?”と声をかけることから、思いがけない大きな事件が展開していく。主人公のFXマン(オーストラリア出身の大型俳優ブライアン・ブラウンが熱演)は、顔のど真ん中に風穴をあけたり、胸から血を吹き出させたり、一瞬にして老人に変貌させるなど、信じられないようなことをやってのける魔術師である。それを司法省の管轄下にある秘密機関が、偽装殺人に利用しようと計画し、FXマンに実行させるのだが、不信に思った警察はベテランの凄腕刑事(『シルバラード』で印象深い演技を見せたブライアン・デネヒーが名演)を起用し、魔術師を逮捕しようとするから大騒ぎ。得意の特殊効果を使って必死の逃亡作戦で次から次へと迫ってくる危険をくぐり抜け、逆に悪の本拠地へ乗りこみ、ここでとっておきの特殊効果を使って・・・・・・?という心ときめくFXアクション・ドラマが展開する。

昔から敵対視する鋭い言葉として、”眼には眼を”がよく使われるが、秘密機関対警察、そして、その両者とFXマンのにらみ合いはまさにその通りの鋭さで、なかでも、恋人を射殺されたFXマンが秘密機関の人間と激闘する時の眼、パトカーに追いかけられ危機一髪難を逃れる時の眼、そして、ラスト・シーンの刑事と特殊効果を仕掛ける眼などは鮮烈な印象を残させる。このシャープな眼の輝きで、この映画の評価はぐんと高まり、ブライアン・ブラウンの人気も一躍上るといっても過言ではないだろう。

また、この映画の見どころのひとつは好対称の場面が光っていることだ。映画のトップシーンがクロームとガラスに包まれた大都会ニューヨーク、ラストは雪山と緑が美しいヨーロッパの大自然、また前半は雨のシーンの連統だが後半はすっきりした青空をやたらに見せる。そして、極め付きは秘密機関の人たちがきちんとスーツを着こなしているのに対してFXマンは粋なシャツ・スタイル、太っちょの刑事はネクタイとYシャツをラフに着てバッチリ決めて、ファッショナブルな男の対決、男の魅力をたっぷり見せてくれることだ。