日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

ネクタイ

海外でまったく通用しないファッション用語:ネクタイ

ネクタイ
necktie

正しくは
【タイ】
tie
【クラヴァット】
cravat

いうまでもない男のスーツのVゾーンを飾る唯一のアクセサリー。ネック neck(首)+タイ tie(締める)から作られた言葉で、その初登場は1830年とされる。日本では1867(慶応3年)冬に発刊された「西洋衣食住」という書物(片山淳之助=福沢諭吉の別名)のなかに、ネッキタイ(襟飾=きんしょく)の文字が見える。以後、この国ではネクタイといい慣らしてきたのだが、現在、海外ではタイというのがふつうとなっている。

無用の長物、と邪魔もの扱いされながら、21世紀を迎えるいまも、ネクタイはその生命を永らえている。そのかわりといってはなんだが、日本ではネクタイというのがふつうだが、英米ではタイと短く呼ぶのが一般的となっている。ネクタイは短くならないが、言葉だけが短くなってしまったというわけだ。もっとも、英米にも古いいい方があって、結び下げ式のそれをフォア・イン・ハンド four-in-handとかダービー・タイ derby tieなどといったりする。これらは1890年代に一般化したネクタイの古語なのだ。もっと古いことをいうと、クラヴァットという表現があるが、これはフランス語でネクタイをあらわすクラヴァットcravateからきたもの。発音は同じだがスペルが異なる。ネクタイの起源は、17世紀のクロアチア軽騎兵(クロアット croate)の首に巻かれた鮮やかな布片にあるとされるが、クラヴァットはこれに因むのである。最近の欧米のネクタイを見ていると、大剣の裏のループ(小剣通し)のところに、クラヴァットの文字を入れたものをよく見かけるが、こうした古い言葉を使って、逆にヨーロッパ風のシャレた感じを抱かせるというのも、ありなのだ。