男ならまずほとんどが、スーツを着る。ジャケットを着る。そのとき必ずあらわれるのが逆三角形の小さなスペース、すなわちVゾーンである。そして、背広が男の顔たりえるのは、このVゾーンこそ、男のファッション哲学をはっきりと示した看板だからだ。Vゾーンに強くなければ、お洒落な男になれても、男のお洒落れを極めることは不可能だ。
dansen 男子専科 December 1988 より
男はVに強くなれ:ネクタイのアクセントに効果を上手く使う
THE V ZONE 新感覚のVゾーン革命
人間の身体で一番大切なのは首、この首にきゅうくつな紐状の帯をくくりつけているのは、現代の資本主義社会に降伏したことの旗印、というような説がある。馬鹿な!そんな論法でいけば、自動車に乗っている人間はみな工業化社会の哀れな奴隷になってしまうだろう。ネクタイを主役としたVゾーンは、もっとフリーで流動的なのだ。
Vゾーンはネクタイの額縁、タイはそれ自体で独立したものではなく、シャツとジャケットがあってはじめてその本来の機能を発揮する。その証拠に裸の身体に結んだだけの、なんとも無様な格好を想像してみるがいい。要するに、Vゾーンは無限の調和の協奏地帯ということだ。三点構成を基本とするこのVゾーンに、もう一つの変化をもたらすのがベスト、ネッカチーフ、そしてポケッチーフである。
こうしたメンズアクセサリーをプラスしてみると、Vゾーンがじつにしなやかに様相を一変する。Vゾーンに深い奥行きを添えるベスト、Vゾーンに華やかな拡がりをもたらすネッカチーフ、Vゾーンのテーマを鮮やかに強調してくれる背広の胸ポケットにさりげなく挿したポケットチーフなど、その個性的表現は数かぎりないほど豊か。80年代のVゾーン感覚はここまで拡大してきた。Vゾーンがきわめてドレッシーな男の衣服だけの、秘めたる愉しみというのは、もうすっかり昔のお洒落感覚になっている。