男子專科 2014 AUTUMN vol.2

男子專科 2014 AUTUMN vol.2

ANDERSON & SHEPPARD:イングリッシュドレープを基本にすべてを軽やかさの追求に捧げる・・・2

男子專科 2014 AUTUMN vol.2 より

芯地とは、前身頃の胸部分に差し込み、スーツの型くずれや保温を補う構造物。サヴィル・ロウでは、リネン、コットン、ホースヘア、フェルトといった素材を重ねた芯地を、顧客の体型に合わせて1枚ずつ手作りしているのが普通だ。しかしここの芯地は、材料すべてが薄く軽い。しかも特別にファイナー(きめ細かい)な密度に指定しているから、しなやかで強さもある。

「軍服から発生したテーラーと対極にあるのがアンダーソン&シェパード。軽やかさはリラックスさを醸し出すエレメント。そのために何から何まで工夫しているんだ」と、さらに得意げなヒッチコック。

こちらも負けずに、この店の御家芸ともいうべきイングリッシュドレープについて聞くと、「それはこの部分のこと」と言って、前身頃の胸あたり、ちょうどアームホールから3センチほど中心に寄った幅4センチ長さ15センチほどを指した。腕を前方にあげると、この部分にゆとりジワのようなドレープが生まれる。「これも腕の運動性を損なわずに服をスマートに見せる工夫なんだが、常に前ダーツの量(ウエストの絞り)と肩幅のバランスを計算しながら、機能線と衣装線を兼ねた美しいドレープを、顧客に合わせて調整するのが私の重要な仕事でもある」と真剣に答えてくれた。

イングリッシュドレープはウインザー公のご用達テーラー、ショルティが考案した。その弟子がこの店の創業者パー・アンダーソンであった。当時ドイツ系テーラーは背中が4枚はぎになったコートの特性を生かしてバック(背)ドレープにより腕の運動性を確保していた。しかし背中が2枚の布で作られたラウンジスーツの登場で新たな工夫が必要になる。そこでショルティは前ダーツを入れ、イングリッシュドレープを考案したといわれる。ドイツのバックドレープに対し、これをロンドンカットという理由である。

今年のアスコット競馬でチャールズ皇太子はシルバーグレーのモーニングを着用したが、筆者は去年着ていた、衿に綿ツイルのパイピングを施した黒いモーニングのほうが格好いいと思った。なぜなら6月にあえて黒いコートで軽やかに見せられるのは、この店ならではのスキルだからだ。黒いモーニングにグレーのウエストコート、そしてピンクやジェード色のインナー。色合わせも優雅になる。この意見に、ヒッチコックは、嬉しそうにうなずいてくれた。

・・・【英国スペシャル・遠山周平の仕立て屋を巡る冒険:ANDERSON & SHEPPARD】了