日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。
トラッド
トラッド
trad
正しくは
【トラディショナル・スタイル】
traditional style
トラディショナル(伝統的なの意)を略してトラッド。これは日本流の俗語でもあり、正式の英語にはない。トラディショナル・スタイルというと、とくにニューヨークやボストンなどのアメリカ東部に見る伝統的な紳士服のスタイルをいい、アイビー・リーグ・スタイルも含まれる。日本では俗にアメトラともいい、1960年代以降、独自の発展を遂げた。ニュートラ、ハマトラ、ゴートラなどというのが、その発展形である。
かつて日本のトラディショナル・ファッションのファンは「隠れ切支丹」である、と喝破した服飾評論家がいた。
また、別の評論家は、トラッドはファッションではなく、ライフスタイルの一部として語られるべきである、と論じた。日本のある種の男たちにとって、トラッドは宗教のような存在に思われている節がある。ここでいうトラッドとは、あくまでもアメリカン・トラディショナル・スタイルのそれであって、1960年代のトラッド&アイビーの大流行が去ったあとでも、一部の男たちをつかんで話さない魅力を持続しているのである。現在、トラッドというとそれはアメトラだけでなく、ブリトラ(ブリティッシュ・トラディショナル)やイタトラ(イタリアン・トラディショナル)等を含んで、およそ伝統的な服装のすべてをさしているわけだが、真のトラッド・マニアはそれを認めないのだ。あくまでもアメリカにこだわり、しかも肩はナチュラル・ショルダー、フロントは3ボタン段返りスタイルでなければならぬ。シャツはもちろん本式のボタンダウンである。こうしたピュア・トラッドと呼ばれるスタイルを好んでやまない男たちは、やはり隠れ切支丹と呼ぶにふさわしい。