CINE PREVIEW:Ronin坂本竜馬

男子專科 1986年3月号 NO.264 より

Ronin坂本竜馬

大河のごとき時代の流れのなかで、必死に右往左往する姿がなぜかチャーミング。

3年ほど前のことになるが、ちょっと変わったテレビ・ドラマが放映された。『幕末青春グラフィティ・坂本竜馬』というのがその番組。ビートルズ・ナンバーをBGMに、ニュー・ミュージック界の有名アーチストたちが、カッコ悪く、ぶざまに幕末の偉人たちの生きザマを演じる不思議なドラマだった。

彼らの着る衣裳はウス汚く、演技といえばただワメきちらすばかり。だが、そんな中からも普通のドラマにはない、なにかパワーといったようなものが十分に感じられた。しかし、演出は思いのほかにシンプルで、カットの多さやBGMの使い方といったものはテレビというよりも、むしろ映画的な使い方がされている。それに、テーマ。この場合は主役の竜馬を演じた武田鉄矢が10数年来持ち続けて来た”竜馬へのこだわり”だが、それ自体がテレビという媒体よりも、むしろ映画的のように思われた。

元フジテレビの社員ディレクターで、『ピンポンパン』や『ムツゴロウスペシャル』など、多くの話題作を手がけて来た河合義隆がこのドラマを演出したということを知ったのは、放映からしばらく後のことだった。彼のような人材が今後の邦画界には必要だと、素直に考えていたことをよく覚えている。

そんな河合が、映画をついに作り上げた。しかも、また竜馬を主人公にした青春ドラマだ。あの河合のこと、”テレビ版の『---竜馬』をそのまま銀幕に持ってくるなんてことはしないはず。かなりの期待を持って試写室に足を運んだのではあるが---結果は、ほぼ満足のいく作品だったといえよう。