昨日と今日の男の博物誌:ダシール・ハメット:男子專科 1986年1月号 NO.262

男子專科 1986年1月号 NO.262 より

ダシール・ハメット(アメリカ:ハードボイルド作家:1894~1961)-4

そう、おれの血の収穫なのさ。

メリーランド州のセントメリー郡に生まれたダシール・ハメットは、学校教育を満足に受けることができずに働きはじめています。14歳のとき以来、学校は縁のない場所となり、メッセンジャー・ボーイを皮切りに新聞の売り子、事務員、タイム・キーパー、操車係、機械工などさまざまな職業を転々としつづける。そして、たどりついたのが、ピンカートン探偵社での調査員の仕事だったというわけです。

その後、第1次世界大戦に一軍曹として従軍したハメットはインフルエンザがもとで健康を害し、結核に侵されてしまう。結局、陸軍病院にいれられて闘病生活を強いられることになる。この病院暮しのあとでハメットは小説を書きはじめ、ちょうど創刊されたばかりの『ブラック・マスク』マガジンに短編ミステリを寄稿したのが作家生活のスタートになりました。H・L・メンケンとG・J・ネイサンによって1920年にはじめられた『ブラック・マスク』は肺疾患の後遺症で探偵社の仕事をつづけられなくなったハメットに生活の糧を得る場を与え、古き良き英国製の探偵小説にかわる新しいホットなスタイルのクライム・ノベルやミステリ・ノベルを次々に送りだしてゆきます。手あかのついたクリシェ(陳腐な決まり文句)をけとばし、「ストリート・ランゲージ」とでも言ったらいいような痛快なフットワークを感じさせる切れ味のよい文体の新鮮さ。こうしたハードボイルド・イノベーションは、むろんハメットをはじめとするブラック・マスク派作家の独占物だったわけではありません。

・・・次回更新に続く