DANSEN FASHION 哲学 No.27 澁澤龍彦:わが夢想のお洒落(3)
十六世紀のイタリアにも、たとえばチェザーレ・ボルジアとか、ジジスモンド・マラテスタとかのように、神をも怖れぬ悪逆無道をはたらきながら、同時に洗練された芸術や文化の愛好家であり、また保護者でもあるといった尊大無礼な貴族が多く現われているが、この日本のルネッサンス期にも、『太平記』に出てくる悪名高い高師直とか佐々木道誉とかのような、「ばさら」趣味のチャンピオンともいうべき、伝統的権威を物ともしない、形破りの戦国武将が何人も登場しているのである。
足利幕府のもとで飛ぶ鳥も落す権力を誇った高師直が、天皇の存在を否定するような言辞を弄したり、名門の公家の娘を片っぱしから籠絡したり、さては石清水八幡宮を焼き払ったりするなどといった、横暴の限りをつくしたことはよく知られている。また同じ頃、権勢をほしいままにした佐々木道誉が、莫大な費用と演出を凝らして花見や茶会を催し、連歌や猿楽をたしなみ、自賛の画像まで物している風流人であったことも周知であろう。こうしたことがすべて、広い意味での「ばさら」に含まれるのである。
・・・次回更新に続く