日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

ブラック・スーツ

海外でまったく通用しないファッション用語:ブラック・スーツ

ブラック・スーツ
black suit

正しくは
【インフォーマル・スーツ】
informal suit
または
【セミフォーマル・スーツ】
semiformal suit

黒の背広という意味だが、日本ではとくに結婚式や葬式など冠婚葬祭の場に用いる男性用の黒いスーツをさす。カシミヤドスキンやバラシア、ベネシャンなど、ふつうのスーツには用いることの少ないドレッシーな表情の黒い生地で作られ、ネクタイやベストなどのアクセサリーを変化させることによって、どのようなフォーマルな場面にも対応できるようになっているのが最大の特徴とされる。このことから、日本では万能礼服とされている。

服装がどれだけ自由になろうとも、最低限のルールだけはきちんと守らなければならない分野がある。それがフォーマル・ウェアの世界で、そこには昼間と夜間における時間のちがい、正・準・略という格式のちがい、またセレモニー(儀式)に参加する立場のちがいといったことを全て考慮して、それらにもっともふさわしい服装を身につけることが求められるのだ……。なんていってしまうから、フォーマル・ウェア、ことに男の礼服の着こなしなんて、ひどく堅苦しくなってしまうのだが、もし、ひとつの服で全てのオケージョンをカバーしてくれるものがあったとしたら、どうだろう。そんな夢のような願いをかなえてくれたのが、このブラック・スーツと呼ばれる黒の上下服であったのだ。いまや結婚式や葬式ですっかりなじみの礼装となっているが、実はこれ、日本人が戦後に作り出した発明品のひとつである。戦後の物資欠乏時代、人々の財布を考えて作り出されたすぐれた商品だったのだ。本来が略礼服なのだから、その英語版でインフォーマル・スーツ、あるいは準礼装としても通用するようになっているからセミフォーマル・スーツ、と呼ぶのが国際的には正しいだろう。