日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

クレリック・シャツ

海外でまったく通用しないファッション用語:クレリック・シャツ

クレリック・シャツ
cleric shirt

正しくは
【ホワイト・カラード・シャツ】
white collared shirt
【カラー・セパレーテッド・シャツ】
collar separated shirt

見頃と袖を多くの場合ストライプ(縞柄)に、カラー(袖口)を白にして切り替えた特異なデザインのドレス・シャツ。1920年代に大流行を見た男のシャツで、ひじょうにシャレた感覚がある。1960年代になって復活し、いまでは白襟と縞柄の組み合わせだけでなく、さまざまな変化があり、女性の間でも好まれている。クレリックは「牧師・聖職者」という意味で、牧師が着ていたというとろからの命名とされる。

〈クレリック・シャツというのは、完全な和製英語で、英語ではホワイト・カラード・シャツとかカラード・セパレーテッド・シャツといわないと、意味が通らない〉このように毅然と解説している服飾用語辞典類のなんと少ないことだろう。多くの辞典類は、クレリックという言葉にこだわって、なんとか辻褄合わせに苦しんでいるのだ。クレリック(牧師・聖職者)が用いたシャツと考えるからおかしくなるのであって、その姉妹語であるクラーク clerkと考えたらどうだろう。疑問はたちどころに解消する。クラークは「英国教会の牧師」という意味のほかに、(官庁の)書記、事務官、また(会社の)事務員、社員といった意味がある。そうした、いわばビジネスマンたちの愛用したシャツと考えると、ほら、問題は解決してしまうのではないか。そう、これはこのシャツを見て、どう名付けようかと思案した日本人がclerk と cleric のスペルを取り違えたところからのミスにちがいない。最近、黒の立衿型の上着をクレリカル・ジャケットといって、これは僧服にヒントを得たものだから正しいのだが、衿だけを白にしたポロ・シャツをクレリック・ポロというのは日本的で、やはり変だ。