髪飾りのカチューシャはなぜそう呼ばれるの?

服装スタイルの「謎・不思議」: 髪飾りのカチューシャはなぜそう呼ばれるの?

ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。

カチューシャの元々は、ロシアの文豪トルストイの小説『復活』の女主人公の名前からきている。1914(大正3)年のこと、日本で舞台化され、この年3月に東京・帝国劇場において芸術座の松井須磨子によって演じられ、日本中に「カチューシャ」ブームを巻き起こした。とくに劇中で須磨子の歌った「カチューシャの唄」なる曲が大ヒットし、小学生までが口にするようになったのである。これは日本最初の流行歌ともいわれている。第一、須磨子自身が日本の女優第1号とされたのだ。そんなこんなで簪(かんざし)や櫛(くし)、指輪などのカチューシャ・グッズが売り出され、これまた爆発的な売れ行きを示す。こうした商品ははじめ商標登録されていたが、その中からあの髪飾りが「カチューシャ」と呼ばれるようになり、今日まで生き残ることになったのである。ちなみに松井須磨子は人気絶頂の中、スペイン風邪で急逝した恋人の演出家・島村抱月の後を追って1919(大正8)年に自殺している。享年33歳であった。