結び目の「フォアインハンド・ノット」の由来は?
ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。
ネクタイでいう「フォアインハンド」には色んな意味があって、まず、これは現在最も一般的な「結び下げ」式のネクタイのことを指している。別に「ダービー・タイ」とも呼ばれ、我国には「幅タイ」という業界用語もある。次にネクタイの最も一般的な結び方、いわゆるプレーン・ノットのことをこの名称で呼ぶことがある。ともに出所はいっしょ。フォアインハンドとは1人で駆る4頭立て馬車のことで、1890年代の英国でこれの御者が始めたネクタイおよびその結び方が、そもそものルーツなのだ。それまでのネクタイはネッククロスなどと呼ばれ、幅広のスカーフ状のものを首に巻きつけるといった形のものであった。これでは4頭もの馬を操るには時として邪魔になることがある。そこで手綱さばきの邪魔にならないようにと考案したのが、「フォアインハンド・タイ」などと後に呼ばれるようになる新型のネクタイだったのだ。それが一般化するのは1890年代も終わりごろからのこととされる。