日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

チルデン・セーター

海外でまったく通用しないファッション用語:チルデン・セーター

チルデン・セーター
Tilden sweater

正しくは
【テニス・スウェーター】
tennis sweater
または
【クリケット・スウェーター】
cricket sweater

白または生成のVネック型ケーブル編みのバルキーなセーターで、首回りと袖口、袖に入れた赤と青のラインを特徴とする。1920年代から30年代にかけて大活躍したアメリカのテニス選手、ウイリアム・ティルデン(1893~1953)の名に因むもので、一般にテニス・セーターとして知られる。イギリスで野球に似たクリケット競技にも用いられたことから、クリケット・セーターとも呼ばれるが、ともにスウェーターと発音するのが正しい。

人の名から直接とられたファッション用語というものは存外多い。アイゼンハワー・ジャケット(アイク・ジャケット =アメリカの将軍、のち大統領)、モンゴメリー・コート(ダッフル・コートの別名=イギリスの元帥)がそうだし、カーディガンというのもクリミア戦争時のイギリスの伯爵の名に因む。変わったところではカチューシャという髪飾りがあるし(トルストイの『復活』の女主人公の名から)、あのポロ・シャツも、ところによってはラコステの名で通じるのだ。ラコステというのは、ウイリアム・ティルデンとともに1920年代の世界のテニス界に君臨したフランスのテニスの名選手ルネ・ラコステのこと。チルデン・セーターもチルデンという名だけでも通じるが、ふたりの偉大なテニス・プレイヤーが、ほとんど同時期(1930年代)に、今残るポロ・シャツ(テニス・ポロ)とテニス・セーターを考案したというのは面白い。しかし、ラコステというのはともかく、チルデンは海外では通用しないから、ここはやはりテニス・スウェーターというべきだ。しかし、イギリスではセーターのことをジャンパーというから、そこではテニス・ジャンパーというのか知らん。