男子專科 1986年3月号 NO.264 より

男子專科 1986年7月号 NO.268 より

オーソン・ウエルズ(アメリカ:映画作家&俳優:1915~1985)-4

頂上から始めるのはつらいものさ。

センセーショナルなイエロー・ジャーナリズムで巨冨を築いた新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルにしたこの映画が完成したとき、ウエルズはまだ25歳という若さでした。『市民ケーン』は新しいオリジナリティに満ちた作品としてひとびとを驚嘆させ、いまでも傑作の名をほしいままにしています。この作品がアメリカ中の話題になった1941年。オーソン・ウエルズは頂上にのぼりつめた男の栄誉を一気に手に入れるのですが、そのあとがいけなかった。どういうわけか、希代のワンダー・ボーイの成功物語はここからトーン・ダウンをはじめてしまうのです。

「私は、トップでスタートして、そして落ちていったんだよ」

と、ウエルズ自身が言っている通り、『市民ケーン』以後に手がけた作品はどれも第1作の独創度と緊密度に達することはできませんでした。

『The Magnificent Ambersons』(’42)。『マクベス』(’48)。『Confidential Report』(’54)。『黒い罠』(’58)。『審判』(’58)。『The Immortal Story』(’67)。どの作品も、天才作家のものと呼ぶには物足りないデキと言われる外はなかった。「処女作にその作家のすべてがある」と言われますが、オーソン・ウエルズの場合は、そのもっとも極端な例であったと言えるようです。

・・・次回更新に続く