服装の流行は、まず「モード」として現われる。ここでいうモードとは「最新型」という意味で、デザイナーによる「創作」などがここに含まれる。これが流行に敏感な人たちの支持を得て拡大すると、「ファッション」と呼ばれるようになるのだ。ここでのファッションとはまさしく「流行」の意味。そして、ファッションがさらに普及し、大衆の間で定着を見るようになると、これは「スタイル」という言葉に置き換わる。スタイルとは、すなわち「定型」とか「様式」の意味。これを「流行の三角構造」などと呼んでおり、ファッション界では常識的な考え方となっているのだが、実際にはモード、ファッション、スタイルの使い分けはこれほど明確には行われてはいない。近ごろの流行を見ていると、モードとして生まれてはみたけれど、ファッションになるまでに消滅してしまう例が驚くほど多いことに気づく。これを「ファド」とか「クレイズ」と呼ぶことも覚えておきたい。
「七分丈のパンツ」が一世を風靡した
「カリプソ・スタイル」1957
マンボ・スタイルの発展形とされるのが「カリプソ・スタイル」。カリプソというのはカリブ海のトリニダード・トバゴの民俗音楽で、1950年代中期にジャマイカ系黒人歌手のハリー・ベラフォンテが歌う『マティルダ』や『さらばジャマイカ』などによって知られるようになっていた。これが日本で決定的となったのは、ハリー・ベラフォンテのヒット曲『バナナボート・ソング』を浜村美智子という女性歌手がカバーした1957(昭和32)年のこと。「デーオ、デーオ」の叫び声で知られるこの曲のヒットとともに、浜村美智子のエキゾチックなファッションが話題となり、彼女は「カリプソ娘」としてマスコミに祭り上げられるようになっていった。ジャマイカ女性に似せた褐色のファンデーションと黄色に脱色したストレートのロングヘア、濃いアイラインやアイシャドーで目を強調し、白い口紅でさらに印象を強調する。衣装はキャミソールに七分丈のマンボズボン。こうした浜村美智子のファッションが「カリプソ・スタイル」として一世を風靡したのだ。