ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。
背広の由来は?
「背広」という言葉の由来については、さまざまな説が取り沙汰されているが、最も知られているのは「サヴィルロウ」説であろう。英国ロンドンはウエストエンドの一角に存在するサヴィルロウ Savile row なる通りは、ビスポーク・テーラー(注文紳士服の仕立て屋)が軒を並べる場所として知られる。この「サヴィルロウ」という名称が日本語化して「背広」になったというのがこの話のキモ。これにはさらに面白い話があって、それを広めたのは明治時代の政治家、岩倉具視だという。氏は1871(明治4)年、英国視察の際にサヴィルロウに立ち寄り、1806年創業の最古のテーラー「ヘンリー・プール」でスーツを誂えたことがある。ここから「背広」という言葉が生まれたというのだが、さて、どんなものだろう。他に、それまでの服に比べて縫い目が少なく、背中が広く見えたからという説もあるが、それだったら私はもうひとつの「シヴィルクローズ civil clothes」(市民服)の訛りという説の方を採りたい。