ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。
何でディレクター・スーツというの?
ディレクター・スーツをご存じというのは素晴らしいことだが、念のために申し上げれば、これは正確には「ディレクターズ・スーツ」といい、他に「セミフォーマル・ジャケット」、またアメリカでは「ストローラー」などとも呼んでいる。いずれにしてもこれは昼間の男子の準礼装とされる格調高い服装で、基本的に黒の礼服地の背広型ジャケットとベスト、それにモーニング・コートに用いる黒とグレイの縞ズボンをもって構成される。TPOに応じてベストとネクタイの色を変化させれば、冠婚葬祭いずれのオケージョンにも対応でき、あの黒の略礼服(ブラックスーツ)を着ているよりは、よっぽどカッコよくなるのである。ではなぜディレクターの名が付いたのか? ここでいうディレクターとは会社の重役といったほどの意味で、これを考案した英国のエドワード7世(在位1901~10)とは直接の関係はない。つまり、重役のような社会的立場の高い人が着るのにふさわしい服ということで、自然発生的にそう呼ばれるようになったものなのだ。