ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。

タキシードとディナージャケットは違うの?

服装スタイルの「謎・不思議」: タキシードとディナージャケットは違うの?

これもよく訊かれる質問ですなあ。タキシードとディナージャケット、この両者はまったく同じものです。タキシードというのは米語であり、ディナージャケットは英国での正統な英語表現という違いがあるだけのことなのだ。先に生まれたのはディナージャケットのほう。これにも先達があってドレス・ラウンジから発展した「カウズ・コート(単にカウズともいう)」が元になって、1870年代から英国でディナージャケットと呼ばれる夜会用の服が徐々に体裁を整えるようになる。これをテイルレス・イブニングとも呼んだものだが、こうした英国の新しい習慣を即座に取り入れてアメリカに紹介したのが、タバコ王として知られるグリズウォルド・ロリラードであった。1886年10月10日、彼は真っ赤なシルクサテンのテイルレス・イブニングに身を包み、ニューヨークはタクシード・パークで行われた舞踏会に現われた。その衝撃的な登場からこのタクシードがそのまま服の名になって、今日でいう「タキシード」になってしまったというわけである。