日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

オーバー

海外でまったく通用しないファッション用語:オーバー

オーバー
over

正しくは
【オーバーコート】
overcoat

または
【コート】
coat

防寒用のコートの総称。冬季に着用するコートの一種で、とくに厚手の毛織物で作られ、丈も長めとなったものを、日本ではこのように呼ぶことが多い。古い服飾用語で「外套」と呼ぶのにふさわしいが、本来はオーバーコートの略とされる。ここでいうコートとは、ジャケット類を含んだアウターウエア(外衣)をいい、それらの上に重ねて着るものという意味で、オーバーコートという言葉が使われている。最近ではコートというだけで通じる。

外来語を消化するのが巧みというか、日本人は独特の和製英語を作りだすばかりではなく、外国語を勝手に解釈して、別の意味に変えてしまうという特技も持ち合わせているようだ。たとえば、フランネル。いうまでもなくこれは生地の名前だが、昔の日本人はこれをまん中から分断して、前半フラノをあのフェルト・タッチの厚手の毛織物の意味に、後半のネルを綿ネルなどとして、フラネレット(コットン・フランネル)の意味にしてしまった。オーバーというのも、これとまったく同じである。本当はオーバーコートとして、はじめて成立する英語なのだが、昔の日本人はこれをオーバーとコートのふたつに分断して、使い分けてしまったのだ。オーバーといえば厚手のウール地を使った防寒用の外套を、コートはコットンなどで作られた薄手の軽いトップコート類をさす、というように・・・。もっとも、いまアメリカやイギリスでオーバーコートと正しくいっても、「昔流行したグレートコート(大外套)のことか?」と勘違いされそうで、この場合は、コートだけで十分通じる。それにしても、軽薄短小の世の中、古きよき日本の服飾用語は消え去るばかりの運命のようである。