ファッションについては大概のことは知っているつもりだが、それでもどうしてもわからないことは多い。たとえば「リゾート着はなぜ派手なプリント柄が多いの?」と問われても、リゾートウエアってそんなものでしょ、とか、そうじゃない大人しい無地のリゾート着ってのも結構あるよ、などと答えるしかないのだ。ま、これもファッション・トリビアに関するようなもので、知っておいて損にはならないが、知らなくてもどうでもよいことが多い。ただしフォーマルウエアについての知識、こればかりは知っておいてけっして損にはならない。というよりも知らないと恥をかくことにもなりかねないのだ。何をどう着ようがかまわない自由な着こなしが横行する現代の世の中だが、フォーマルウエアの世界だけはそういうわけにはいかない。

タキシードにはなぜ拝絹があるの?

服装スタイルの「謎・不思議」: タキシードにはなぜ拝絹があるの?

タキシードや燕尾服(イブニングコート)など夜間用の男の礼服には、衿の部分が絹織物地でおおわれているものがある。これを「拝絹(はいけん)」といい、英語ではフェイシング・シルクなどと呼んでいる。これは何のためにあるかというと、室内の灯りが乏しかった昔、少しの灯りでもこれに反射させて、着ている人の顔を浮かび上がらせようとしたためという。夜間用の礼服には光沢感の強い生地を用いる傾向が強いが、これに反射して揺らめく灯火というものも夜会の雰囲気を高めるのに役立つのである。「拝絹」がいつ誰によって作られたかというのは分からないが、1870年代から英国に登場したタキシードの前身である「カウズ・コート」の衿には、すでにシルクかベルベットのカバーがかけられていたというから、これが「拝絹」の元になったのは間違いないだろう。なおカウズ・コートの衿型はショールカラー(ヘチマ衿)でなければならなかったというのも面白い事実だ。