日本のファッション用語には海外でまったく通じないものが沢山ある。たわむれに抽出したところ、それは400語ほどにも達した。その中から和製英語に属するものを中心に200語あまりを抜粋。今回ここに紹介するのはそこから厳選した用語の類で、その多くはすでに一般化しているから、国内で使用する限りはまったく問題ないのだが、いざ海外でという時に困ることが多い。日本だけのおかしなファッション用語というのも、これはこれで面白いのだが・・・・・。

ノータック・パンツ

海外でまったく通用しないファッション用語:ノータック・パンツ

ノータック・パンツ
no-tuck pants

正しくは
【プレーン・フロント・パンツ】
plain front pants
または
【フラット・フロント・パンツ】
flat front pants

スラックス類のフロント(前)部分、ウエストバンドの下部に見られる前ヒダをタックといい、これのないものをノータック・パンツという。タックは本来ウエスト部分のゆとりを設けるためにとられるもので、タックの数が多くなるほど腰回りはゆったりしてくる。タックは「折り込む・縫いヒダをとる」という意味で、ちょっとつまんで止めるところに特徴があるが、これも正しくいうならプリーツpleatsである。

特殊な例をのぞいて、ジーンズにタックがないのはなぜか?それは、腰回りをよりぴったりとフィットさせるためである。そうすることによって、ジーンズはよりジーンズらしさを発揮する。では、アイビー調のパンツにタックがないのはなぜだろう。それはこの種のスタイルが、いかに伝統に根ざしているかを示すものだからである。ズボンの前タック(正しくはフロント・プリーツであるが)が発案されたのは、20世紀初頭フランスのことであるとされる。アメリカ東海岸を発祥とするアイビーおよびトラディショナル・モデルの服装は、それ以前からのアメリカの古きよき伝統、すなわち古典趣味を今に伝える男のベーシック・スタイルなのである。したがって、トラッド&アイビー調のパンツにはけっしてタックはつかないのだ。しかも股上は基本的に浅い。これまで男のパンツは、股上の深いワンタックやツータック型が主流だったけれど、最近、ノータックのスポーティーなパンツがあらわれ、人気を集めるようになっている。そして、こうしたものを英語で正しくプレーン・フロント・パンツとか、もっと新しくフラット・フロント・パンツと呼ぶ傾向が生まれてきた。