「取るに足らぬこと、些細なこと」を英語でトリビア trivia といい、当時のテレビ番組『トリビアの泉』以来、大変な雑学、蘊蓄ブームを巻き起こすようになっているが、ファッションの世界にはこれに類するトリビアがことのほか多く見受けられる。たとえば「腹巻き」は16世紀のヨーロッパで生まれ、日本では明治時代にキモノから洋服に変化したときに帯の代わりに用いられたという。またトートバッグはもともとキャンプ地で水を運ぶために使われていた、というのもこれを知らない人にとっては「目からウロコ」の話となるだろう。ファッションに関するトリビアは語源や発生にまつわる話が多いけれど、それを知っているとつい誰かに自慢したくなるものだ。それこそトリビアのトリビアたるゆえんなのだが、あの女性ファッション誌『JJ』のタイトルが「女性自身」のアルファベット綴りの略からきているって知っていました?

ヴィトンで下駄の爪皮を作った男がいる

ファッション・トリビア蘊蓄学:ヴィトンで下駄の爪皮を作った男がいる

あのLVマークの入った「ルイ・ヴィトン」のカバンをばらして、「爪皮」を作った日本人がいる。爪皮というのは、雨の日に下駄の爪先に取り付けて足先の濡れるのを防ぐ、いわば「爪先おおい」といったもの。もちろん雨の日に和服でお出かけという時にしか役に立たない道具である。これを新品のルイ・ヴィトンで作ろうというのだから、請け負った職人さんも「でも、いいんすか、ほんとうに」といいながら、ハサミでジョキジョキ切っていったという。「私も女房もこの爪皮は死んでも雨の日には使わないないつもりだ」とこれまたキザなことをおっしゃっているが、この御仁こそ誰あろう故・伊丹十三氏なのである。氏の著作『再び女たちよ!』(昭和47年5月第1刷刊)によると、「私が実践したキザを一つだけ書くなら、去年私は女房とお揃いで爪皮を作った」とあるから、それは昭和46年のことであったのだろう。そのころのルイ・ヴィトンは、けっして我ら日本人庶民の手の届くものではなかった。それにしても惜しい人物を亡くしたものである。