男子專科 2014 AUTUMN vol.2

男子專科 2014 AUTUMN vol.2

近代メンズモードの歴史は、サヴィル・ロウの歴史でもあった。老舗御三家から軍系、新派、分家、異端まで、総本山の今を渾身レポート!

ANDERSON & SHEPPARD:イングリッシュドレープを基本にすべてを軽やかさの追求に捧げる・・・1

男子專科 2014 AUTUMN vol.2 より

英国の生んだ近代メンズモードがエドワード7世とウインザー公のふたりによって世界に伝播したことは『ダンディ論』でも書いた。さてこの使命を現代に受け継いでいるのがチャールズ皇太子である。彼はダブル胸スーツとアスコット・モーニングの着こなしだけで、その責務を充分果たしているように筆者には思える。2着ともドレッシーな服だが、それをとてもリラックスして着ている。なだらかな肩のライン、体を包みこむような優雅なシェープ、この雰囲気作りにひと役買っているのがアンダーソン&シェパードだ。

ジョン・ヒッチコックはここのマネージングディレクターであり、プリンスのマスターテーラーである。高齢だが、彼のカットする服は評判を呼び、指名客が絶えないらしい。「うちの服はシルクの糸からして違う。細いけれどすごく丈夫なんだ。この糸を使い、手でバックステッチすると縫い目がストレッチして着る人に負荷を与えない。肩の縫合も、そしてここも」と、腰ポケットを指差した。確かめると、驚いたことにフラップ付きの玉縁ポケットまで手縫いしてあるのだ。「きみのはいい服だけど、腰ポケットはマシンだろ」と、得意げなヒッチコック。

悔しいので、プリンス・チャールズのダブル胸の上着のボタンが、下段と中段のボタンスタンスより中段と上段のほうが長くなっているのは何故かと、指摘する。おっ、よく気づいたなという顔をして、「あれは細く見せるための工夫なんだ。もっと面白いものを見せるから、おいで」とワークルームへ案内してくれた。そこは自然光が天井のガラス窓からふりそそぐ、快適で広いスペース。彼はフルキャンバスの芯地の材料をバン台(作業机)に広げた。

・・・【英国スペシャル・遠山周平の仕立て屋を巡る冒険:ANDERSON & SHEPPARD】次回更新に続く