男子專科 2014 AUTUMN vol.2

男子專科 2014 AUTUMN vol.2

HUNTSMAN:ビスポークを死守しながら老舗のブランド力を最大限に生かす・・・2

男子專科 2014 AUTUMN vol.2 より

彼からは最初、ダークスーツで身を固めたIT企業のやり手経営者のような印象を受けた。ロンドン大学のインペリアル・カレッジでバイオロジーを修めた秀才らしい。スーダン出身で、前職はレディースをやっていた。2012年にハンツマンを買収。その理由は、「ハンツマンはサヴィル・ロウでもビッグ3のブランドのひとつ。それが手に入る可能性があるから買った」という。

こう書くと、高学歴でお金持ちのルビーが、自らのキャリアアップを図って、愛もなく、老舗を買収したように思われる方もいるだろうが、実は違う。この2年間、彼はハンツマンのアーカイブを猛烈に勉強したのだという。

「その結果わかったのは、ビスポークにはいっさい触ってはいけないということ。このシステムは文化だからだ。手縫いの部分、手作りのコンストラクション、伝統的な製作法はすべてそのまま残している。しかし伝統だけでは未来が見えにくい。そこからさらに、レディトウ ウエアとメイド トウ メジャーを取り入れ、ハンツマンのブランド力を強化することを考えた。そこで一番重要なのがマテリアル。ウールでいえばクラシックな柄、重さ、品質をすごく大事にしている。フルキャンバス芯やボタンなどの付属も、ビスポークと変わらないものを使っているんだ。シーズンごとに新しいコレクションを提案することも、これまでのサヴィル・ロウにないチャレンジだと思っている」

階下にある既製服の生地チョイスが優れていること。そして品質が、以前クリュー市の某工場で作っていたものより向上していることを告げたら、工場をイタリアに変えたことを教えてくれた。「製造は英国にこだわりたかったけれど、いいところがなかった。今の工場もこの1年ですごく品質が良くなり、ビスポークのレベルと遜色がないほど近づいている。メイド トゥ メジャーは製作に4週間、価格は約2500ポンドから(既製服の30%増し)。ビスポークは製作に4カ月、価格は約5000ポンド。将来的な夢としてはメイド トウ メジャーをEコマースでやりたいと思う。今その準備を始めているんだ。日本へはよく行くけれど、テーラーリングにハイテクを組み入れる思いつきは、日本へ行ったとき思いついたものなんだ」いい忘れたがハンツマンの長年の顧客である俳優のグレゴリー・ペックのアーカイブ展が店内で催されていた。1962年のオスカー受賞作『アラバマ物語』でフィンチ弁護士が着たチェックジャケットといった映画衣裳から、ホワイトハウスに招かれたときのワンボタンのインフォーマルスーツなどの私服まで、ハンツマンが名優のために誂えたワードローブは、時間を忘れるほど見ごたえのあるものだった。

・・・【英国スペシャル・遠山周平の仕立て屋を巡る冒険:HUNTSMAN】了