SPENCER HART:揺サヴィル・ロウのクール・キングは今、パームスプリングスに夢中だ・・・2
ニック・ハートには各時代ごとに彼が理想とする『クールの系譜』が存在するのだという。それもかなりマニアックな。
「店のディスプレイで一部を使用しているからおわかりになると思いますが、影響を受けたのはマイルス・デイヴイス、セロニアス・モンク、チェット・ベイカー、ウィリアム・クラクストンの映像や写真集などです。ぼくの場合は特にミュージシャンから強い影響を受けました。単に彼らのトラディショナルな服装だけでなく、音とか、生き方とか。それらをミックスして現代的でクールなタッチに仕上げることが好きですね」
この話を想像するとこういうことになるのだろう。スペンサー・ハートにおける『クールの誕生』は、マイルスのコンテンポラリーなスーツに、ジャズ界の巨人と言われたモンクの禁欲的なピアノソロが加わり、青春のトランペットと呼ばれたチェット・ベイカーがブルージーな陰影をつけ、さらにクラクストンの写真がコレクションを徹底したモノトーンにした。しかしそれとパームスプリングスの結びつきは、どうしたものか?
「パームスプリングスはハリウッドからクルマで2時間くらいのところにあるモダンタウンです。そこにはフランク・シナトラなどハリウッドのミュージシャンが素晴らしい家を建てて住んでいました」
2013年スペサー・ハートは『パームスプリングス』と名付けたメンズ・フレグランスを発表した。王室ご用達のフローリスとコラボしたことにも驚いたが、その香りにも感心した。スモーキーなジャズクラブのようなクールなテイストを保ちながら、心をリラックスさせてくれるのだ。これは今世紀発売されたメンズ・コロンの最高傑作のひとつだと思う。しかも広告ヴィジュアルがイカしてる。水着姿の女性がさす日傘の下で、黒づくめのニック・ハートがたたずむ。その背景にあるのは、フランク・シナトラが暮らしていたパームスプリングスの住宅だ。
「次の春夏はシナトラやラットパックに影響を受けています。パームスプリングス・プリントのシャツや、シアサッカーも登場する。パームスプリングスは砂漠のど真ん中にアメイジングな家が出現するクレイジーな場所だから魅了されるのです」。
クールなドレスアップこそ男の装いの本質、とするニック。そして最近は、おとなの男性はドレスアップしたときこそ余裕を醸し出さねばならない、という心境に到達したのであろう。あのフランク・シナトラが演じたダニー・オーシャン(元祖オーシャンズ・イレブン)やトニー・ローム(マイアミの私立探偵)のように。
・・・【英国スペシャル・遠山周平の仕立て屋を巡る冒険:SPENCER HART】了