NORTON & SONS:サヴィル・ロウ再生術はロンドン・コレクションから始まる・・・2
「ぼくが求めたのはひとつのことだけです。単純にベストクローズを作り出すこと。英国製の生地だけを使い、ビスポークだけをする。そして素晴らしいサービスを顧客に提供すること。しかしそれを認知させるまで時間が少しかかりました。きっかけは友人であったキム・ジョーンズから、ロンドン・コレクションを手伝ってほしいという連絡でした。ノートン&サンズは昔ハーディ・エイミスのコレクションを手伝っていた歴史があります。そして何より、我々の仕立て屋としてのスキルがファッション界の人々にも認めてもらえる大きなチャンスでした」
結果はパトリックにもキムにも吉と出た。キム・ジョーンズはイギリスにおける2006年度最優秀メンズデザイナー賞を獲得、その後のキャリアアップにつなげる。新生ノートン&サンズも技術力の高さが認められ、腕の良い職人が集まり始める。しかも商品の質を保ちビスポークだけで勝負するという姿勢にカスタマーたちが共鳴し、完全に店の評判は回復したのである。
さらにパトリックはアーカイブを調べるうちに、ここがE・トウツという店を傘下に治めていたことに気がつく。1867年創業のE・トウツは、店主がニッカーボッカーを発明したことで知られる著名なミリタリーテーラー。あのチャーチルも顧客だった歴史的な店のひとつだ。
「そこで商売を2つに分けることにしたのです。ノートン&サンズはビスポーク専門。4000ポンドの最高級ハンドメイドスーツをサヴィル・ロウで売る。E・トウツはレディ トウ ウエア。スポーティな新しい感覚のカジュアルウエアをロンドン・ファッション・ウィークで発表する。店も別にしたのは、異なったものをひとつのハウスで売ると、顧客に正しいメッセージを伝えにくいから」。
明確なコンセプト。その明晰さは、彼の着こなしにも現れていた。自転車通勤のパトリックの普段着は、ビッグカーキトラウザースにネイビーのTシャツ、そしてニューバランスのスニーカー。スーツの場合は、ナローショルダー、スリムスリーブ、ハイアームホールのグッドテーラーリングされたダークカラースーツに、白シャツとダークブルーのネクタイ、靴下もダークブルー。
「ぼくには2種類の服があればいい。それはフォーマルドレスとノットフォーマルドレス(笑)」。
まったく、なんてイケメンは得なのだろう!
・・・【英国スペシャル・遠山周平の仕立て屋を巡る冒険:NORTON & SONS】了