男子專科 2014 AUTUMN vol.2

男子專科 2014 AUTUMN vol.2 

NORTON & SONS:サヴィル・ロウ再生術はロンドン・コレクションから始まる・・・1

男子專科 2014 AUTUMN vol.2 より

テームズ川に近接する大きなビルの上階に、パトリック・グラントが率いるスタジオがあった。

「ロンドン・コレクションを終えたばかりで、来年用の撮影にかかっているために仕事場が騒がしくてすみませんね」と言いながら自分でお茶をサーブしてくれた。暖められたポットに葉を入れ、ミルクは?砂糖は使いますか、と丁寧に聞いてくれる。その紅茶の
おいしかったこと!

2005年にノートン&サンズを買い取り、最年少でサヴィル・ロウのガブナー(仕立て屋のボスというスラング)になった男は、極めて礼儀正しく、また優美な所作にも魅了されてしまった。まるでゲイリー・クーパーとクラーク・ゲーブルを足して2で割ったような格好良さだ。これからのサヴィル・ロウを背負って立つ人はスター性がないといけない。彼には天性のそれが備わっている気がした。

「オックスフォードの学生時代に、ファイナンシャルタイムズを読んでいたら偶然サヴィル・ロウの古いテーラーが売り出されている記事を見つけたのです。それで唐突にやりたくなってしまった。価格は内緒だけど、100万ポンド以下だったと打ち明けておきましょう(笑)。家を売り。愛車を売り。友人6人から投資を受けた。テーラービジネスは政府から優遇処置があって、銀行からもお金を借りることができました」

ノートン&サンズは1821年に創業し、ドイツ皇帝の服作りもした歴史ある仕立て屋だ。1970年まで店は繁盛した。しかしアメリカへ販路を広げ、市場に迎合した服作りをしたのが祟り、業績が悪化。パトリックが店を引き継いだときは、レギュラーの顧客が20人しかいない状態。初年度のスーツの売り上げは100着以下だったという。

・・・【英国スペシャル・遠山周平の仕立て屋を巡る冒険:NORTON & SONS】次回更新に続く