HENRY POOLE:世界のセレブが頼りにする幸福を運ぶアゲアゲ・テーラー・・・2
さてここからは筆者の想像であるが、当時周囲の人たちはこのように考えたのではないか。つまり、「ルイ・ナポレオンはヘンリー・プールで服を仕立てた途端に運が開けてきたらしいぞ」と。さらにこの噂に追い打ちをかけるように、ダンディなプリンスも英国の王位につく。サイモンによるとエドワード7世は即位にあたって世界の王族や貴族たちに、「余に会いたければヘンリー・プールの衣装でキメてこい」と非公式なおふれが出たらしい。
エドワード7世はダンディの誉れ高いが、ナポレオン3世も多趣味な文化人だった。ともあれこのふたりのダンディのおかげで、ヘンリー・プールのゲストルームの壁には、世界中の王族から賜った御用達の証しが、多数飾られることになった。
この店の歴史は、プール家に跡継ぎが絶えたため、いとこで会計事務であったカンディ家が引き継ぎ、7代も続く同族経営。現存するサヴィル・ロウ最古のテーラーとしてこの地に君臨している。
ふとサイモンの服を見るとバーズアイのサキソニーを着ている。6月のロンドンは、朝がたは冷えるが、日中は21〜24度Cにはなる。さすがに暑いだろうと聞くと「いい質問です。じつは最近のビスポークの動きでもっとも顕著なのが素材。春物も冬物も昔より平均して2〜3オンス軽くなっていますね。これもライトウエイト・サキソニーで9オンスしかありません。永く着用できてクラシック。お勧めです(笑)」
ヘンリー・プールヘ新規で来る客は今も紹介が4割程度。地階の大きなワークルームでは、パンツ職人がふくらはぎのカーブにそって丁寧に癖とりのアイロンを当てていた。
さすが、いい仕事してる!
・・・【英国スペシャル・遠山周平の仕立て屋を巡る冒険:HENRY POOLE】了